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福岡高等裁判所 昭和29年(ネ)21号 判決

控訴人 附帯被控訴人(原告) 松崎三代次

被控訴人 附帯控訴人(被告) 熊本県農業委員会

原審 熊本地方昭和二三年(行)第三一号(例集四巻一二号314参照)

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人が昭和二十三年八月一日附でなした別紙目録記載(ロ)及び(ハ)の八筆の土地につき南小国村農地委員会の樹立した未墾地買収計画に対する控訴人の訴願を棄却した裁決はこれを取消す。

控訴人その余の請求及び被控訴人の附帯控訴を棄却する。

訴訟の総費用はこれを五分し、その二を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決中控訴人敗訴部分を取消す、被控訴人が昭和二十三年八月一日附でなした別紙目録記載(イ)及び(ハ)(ろ)記載の土地につき南小国村農地委員会の樹立した未墾地買収計画に対する控訴人の訴願を棄却した裁決はこれを取消す、被控訴人の附帯控訴を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は、本件控訴につき控訴棄却の判決を、また附帯控訴として原判決中被控訴人敗訴部分を取消す、控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする、との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は控訴代理人において

「一、別紙目録(ロ)記載の二筆の土地に隣接する字女夫木一一七番、一一六番、一二〇番、一二二番、一二三番の土地はいづれも控訴人の所有であつたが、そのうち一二二番を除いた四筆の土地は未墾地として買収され、(ロ)の土地の北側一一七番、一一六番、一二〇番はいずれも開墾されたが耕作に適しないので、現在申訳のように林檎が植栽されている。この点からしても右(ロ)の土地が開墾に適しないことは明らかである。

二、同目録(ハ)(ろ)の四筆は開墾すればできないことはないが、隣接の土地(当審昭和三十年一月二十二日附検証調書附属写真(5)参照)が一たん開墾されながら耕作に適しないため再び植樹されている現状に照しても右四筆の土地一帯が開墾不適地であることが判る。」

と陳述した。(証拠省略)

被控訴代理人において

「別紙目録(ハ)記載の土地に隣接、又は囲まれる土地のうち(11)の土地の北側にある三〇四三番の農地となつていたので未墾地として買収していない。(11)の南側三〇四六番、三〇四七番の一の山林は開墾不適地であるから買収しなかつた。(8)の東側と(8)及び(9)の南側の山林は同じ理由で買収していない。(10)の北側三〇三五番は未墾地として買収した。控訴人所有の同所三〇四二番の土地((9)(10)(11)(13)の土地に囲まれる土地)は昭和三十年四月二十日に三〇四〇番と合併の上未墾地として買収した。」

と陳述した。(証拠省略)

理由

控訴人主張の訴願棄却の裁決がその主張の経緯でなされ、右裁決書がその主張の日控訴人に送達されたことは当事者間に争がないので、右裁決の適否について判断する。

一、別紙目録(イ)記載の土地が開墾適地であり、これに関する訴願裁決に違法な点はないということ、及び同目録(ロ)記載の土地に関する訴願裁決が違法であり取消を免れないということに関する当審の判断は左記のとおり訂正補充する外、こゝに引用する原判決の理由記載と同一である。

「原審検証の結果に当審証人佐藤百起、同室津文喜、同長谷部ツチの各証言を綜合すれば、右(イ)の五筆の土地は、もと水田として利用されていたが、大正三、四年七月頃その西北に隣接する畑地で山崩れを起し、その土砂の流入によつて右田地が埋没したので、崩壊した畑の部分を山林とするため植林し、本件土地は流入土砂を排除して若干の田を残した外、大部分を畑にしたが、なお崩壊の危険があるからというのでこれに杉苗を植えて現状のように杉山となつたこと、右山崩れは崩壊した畑地の北西に存する水路の漏水によるものと考えられること、以上の事実が認定でき、他に右認定を左右するに足る資料はない。そうだとすれば当時崩壊した畑地が現状では山林となり、崩壊当時と事情を異にしており、なお不安があれば右水路を改修する等万全の措置を講ずれば、たとい本件山林を農耕地としたからといつて再び埋没又は流失等の危険はないものと考えられる。」

二、目録(ハ)記載の六筆の土地は全体として開墾に適当でなく、これが買収は不適法であると判断するが、その理由は左のとおりである。

1、右六筆の土地の標高、位置、傾斜度、気温、土性等は原判決理由記載のとおりであるけれども

2、(11)の土地の西北側にある三〇四三番の土地は当審検証の結果によれば杉山であるところ、被控訴人の主張によれば地目が農地となつていたので未墾地として買収していないというのであり、また(11)の土地の南側三〇四六番、三〇四七番の一の山林並びに(8)の土地の東側と(8)及び(9)の土地の南側の山林(当審検証の結果によれば両地は尾根をなし、本件土地より高い位置にある)はいづれも開墾不適地として買収していないことは被控訴人の認めるところであり、当審検証の結果により認められる如く右六筆の土地の中心部に該る控訴人所有の三〇四二番の山林は被控訴人の主張によれば既に未墾地として買収ずみであるというのであるが、これを認めうる資料はない、また被控訴人は北側の三〇三五番の山林を買収したと主張するが、これまた認定の資料がない。以上のとおり(ハ)の六筆の土地は原審認定のとおり一部開墾不適地があるだけでなく、土性や斜度から見て一応農耕に適すると考えられる部分の中央に杉林が存し、西南の小部分を除きその周囲が杉林で囲まれており、特に東南部は本件土地より高目に位し、これらの点を度外視するにおいては日照その他農耕地としての適性を備えているともいえるであろうが、右事情を考慮すれば日照、通風等の関係で農耕地としての利用度は甚だしく低下するものと判断され、成立に争のない甲第一号証、甲第六、七号証、原審証人上野己熊の証言により認められる如く、この地方は秋田、吉野地方と並び称せられる日田美林(杉)地帯に含まれる関係もあつて、未墾地として国が買収し地許増反希望者に売渡しても、一般農家の耕作反別狭小であるに拘らず、農耕地として利用されることが少く、再び杉の植林等がなされることが多いという事情を合せ考えれば、(ハ)の六筆の土地は結局開墾に適しないという外はない。

以上のとおり本件土地につき南小国村農地委員会が樹立した未墾地買収計画を支持して控訴人の訴願を棄却した被控訴人の裁決中(イ)の土地に関する部分には違法な点がないが、その余の(ロ)及び(ハ)の土地に関する部分は違法であるからこれを取消すべきであり、これと趣を異にする原判決を主文のとおり変更し、本件控訴は一部理由があるが、被控訴人の附帯控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第九十二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 丹生義孝 岩崎光次)

(別紙物件目録省略)

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